単孔式手術とは
単孔式手術は4cm以下の傷一つで行う手術方法です。2011年にスペインのディエゴゴンザレスリバス先生が肺がんに対する単孔式手術を報告1)して以降、世界中に広まりつつある新しい手術方法です。この方法は、美容的に優れるのみでなく、痛みが少ないという患者さんにとってわかりやすい利益が期待できる手術手技で、肺癌、胸腺腫瘍、縦隔腫瘍、重症筋無力症、多汗症などの胸部手術に適応されます。単孔式で行うためには手技の修練が必要で、全国でもまだこの手術が出来る施設は限られていますが、本研究会はこの手術手技の普及に努めています。
単孔式肺がん手術
単孔式胸腺摘出術(剣状突起下アプローチ)
呼吸器外科単孔式手術マニュアル(南山堂)
単孔式手術の利点と欠点
肺がんなどの胸の手術は痛みが長引くことを知っていますか?肺がんの手術では肋骨の隙間から手術を行う必要がありますが、肋骨と肋骨の間には肋間神経という神経が走行しているため、手術後は神経が一時的に麻痺してしまい「ぴりぴり」とした痛みやしびれが長く続いてしまうことがあります。多くの場合は改善しますが「開胸術後疼痛症候群」として痛みやしびれが一生続いてしまうことがあります。手術後の合併症として重要ですが現在これを完全に防ぐ方法はありません。しかしながら傷1つで行う単孔式手術ではその発生率を下げることが出来ると報告されています2,3)。単孔式手術の利点は、傷が小さく美容的に優れること、術後の痛みが少なくなることが期待されること、一生涯痛みが続いてしまう慢性痛が生じにくいことです。欠点は手術の難易度が高いため手術操作に慣れが必要なこと、新しい手術であるため手術の精度や長期成績の評価がまだ十分なされていないことです。
1) Gonzalez-Rivas D, de la Torre M, Fernandez R, Mosquera VX. Single-port video-assisted thoracoscopic left upper lobectomy. Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2011;13:539-41.
2) Hirai K, Usuda J. Uniportal video-assisted thoracic surgery reduced the occurrence of post-thoracotomy pain syndrome after lobectomy for lung cancer. J Thorac Dis. 2019;11:3896-902.
3) Nagano H, Suda T, Ishizawa H, Negi T, Kawai H, Kawakami T, et al. Uniportal video-assisted thoracic surgery lowers the incidence of post-thoracotomy pain syndrome. Fujita Med J. 2020;6:31-6.
単孔式肺がん手術
肺がん手術の傷の比較をお見せします。手術の内容が同じであれば、傷が小さくて痛みが少なくて慢性痛が生じにくい方法が良いと思うのは当たり前と思います。
この図は肺がん手術の傷の比較です。従来から行われてきた開胸手術では30cm皮膚切開を行い肋骨も1~2本切断して手術を行いました。2000年頃より胸部の内視鏡手術である胸腔鏡手術(きょうくうきょうしゅじゅつ)が行われるようになりましたが、通常3~4カ所の切開創で行います。2009年より日本でもロボット手術が開始されました。しかしながらロボット手術は一般に人間の手で行う胸腔鏡手術の切切開創数より多い5カ所の切開創で手術を行います。対して、単孔式手術では4cm以下の傷1つのみです。よって美容的に優れるのみで無く術後の痛みや慢性痛の発生が少なくなることが期待できます。
単孔式胸腺・縦隔(じゅうかく)腫瘍手術
縦隔(じゅうかく)とは胸の中の肺と心臓以外の部位のことです。胸腺組織、リンパ組織や神経などがこれに含まれます。胸腺・縦隔腫瘍手術の傷の比較をお見せします。単孔式手術では側胸部肋間アプローチ(脇の肋骨の隙間から手術する方法)と剣状突起下アプローチ(みぞおちから行う手術法)の2通りの方法があります。
この図は前縦隔腫瘍(胸腺腫瘍)・重症筋無力症に対する手術法の傷の比較です。開胸手術では胸の前にある胸骨という骨を切断する必要があります。胸腔鏡手術やロボット手術では通常3~5カ所の手術切開創が必要になります。対して単孔式手術では4cm以下の切開創1つで手術を行います。
単孔式手術が受けられる施設について
以下の施設は単孔式手術を行っている施設です(全てではありません)。施設によって単孔式手術の適応基準が異なります。病気の種類や進行度によって単孔式手術が受けられない場合があります。詳しくは各施設に問い合わせください。
県別(あいうえお順)
前橋赤十字病院 担当医師 井貝 仁
都立墨東病院 担当医師 江花弘基
聖マリアンナ大学 担当医師 本間崇浩
藤田医科大学岡崎医療センター 担当医師 須田 隆
大阪大学病院 担当医師 大瀬尚子
愛媛大学病院 担当医師 佐野由文
順次アップ予定です